第七話 めぐる季節と妹と私
今日は久々の外出。 牛車に乗った真白は、父と二条大路にいる。外はよく晴れていて、心地よい。 四月、代替わりがあり、村上帝が即位した。 十月、大嘗会(だいじょうえ)御禊(ごけい)の当日。この大路には、鴨川で行われる御禊へ向かう行列を見学するために車や人がびっしり並んでいた。 「父さま、ほんとうは御禊に加わるご身分でしょうに。仮病でお休みされるなんて」 「馬に乗れぬほど腰が痛いのだ、仮病ではない。たまには、外から眺めてもよいだろう。新しいことに気がつくかもしれぬ。それに、真白に見せたかったのだ」 即位にともない、宮中では行事が多く行われている。しかし、重明は腰痛がひどいと新帝に直訴し、しばらくの休みをいただいた。 お出かけは真白も心が弾む。重明の横顔をちらと窺う。その顔には、家を出てからずっと、明るい笑みが浮かんでいた。 重明は御禊の列について、あれこれ語っている。あれはいい、これは直したほうがいいなど、忘れないように紙に書き留めながら。 けれど、『真白に見せたかった』――真白と見たかった、ではなく『見せたかった』。その言い方に引っかかりを覚えたが、行列を見ているうちに消えてしまった。 「ほら、新しい帝の輿だよ」 禊に向かう行列は、長く長く続いている。 あれが帝――年の離れた、父の異母弟。前帝・朱雀院の弟でもある。 輿には御帳がかかっているので、真白は目を凝らした。 伊勢へ向かったとき、対面した朱雀は線が細くて儚げなお方だった。 しかし、わずかに垣間見えた新しい帝は体格が良いせいか、堂々としていてすでに威厳を備えていた。 「我が弟ながら、ご立派にあらせられる」 二条大路を進む輿を見守りながら、重明がつぶやいた。 「そのようでございますね。父さまは、帝とお親しいと聞いております」 袖で口もとを隠しつつ、真白が答えた。 「年は離れているが、話が合う。新帝は政(まつりごと)のみならず、詩歌や音楽にも長けておられる。特に、琴(きん)を好んでおられるので、そなたとも話が合うだろう。そうだ、入内(じゅだい)してみるか」 父の、思いもよらない提案に、まばたきを繰り返してしまう。 「まさか。帝には、すでに何人もの女君がいらっしゃいます。私は参りません」 ふと、顔をそむけると、重明が声を上げて笑った。 「ははは、冗談だよ。今の東三条の邸には、真白がいないと困る」 斎宮から戻って約一年。もとの暮らしにも慣れ、女房や家司に助けられつつ邸の家政を預かるようにもなった。琴と歌を学び、弟妹の面倒も見ていると、毎日があっという間。 「忙しい日々です。斎王だったころが懐かしいほどに」 「頼りにしているよ、真白」 「はい」 大きく頷いた真白は、再び帝の輿に視線を送る。 ほんの一瞬だけ、目が合ったような気がした。牛車の御簾越しなのに。いや、帝は兄・重明に気がついてあいさつしただけ……そう思うけれど。 ――眩しい。
この記事へのコメントはありません。