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第七話 めぐる季節と妹と私

 翌、天慶九年。

 母の死から一年が経ち、喪が明けた真白は裳着の式を行った。十八歳での遅い成人となる。重明親王の娘、前斎王にはお祝いが山のように届いた。

「都では、真白さまのことを『竹の都のかぐや姫』と呼ぶようですね」

 真白の長い髪を梳きながら、但馬がほほ笑んだ。斎宮のある『多気』という土地と『竹』をかけているらしい。

「噂ですよ、噂。真白さまは、真白さまです」

 照葉は真白の爪を磨いている。じろりと但馬を見やった。

「けれど、裳着を終えた姫さまがどちらの公達(きんだち)とご縁を結ぶのか、話題になっています。真白さまは、どのような方がお好みですか。見目のよい方、お話の上手な方、歌の上手い方、楽器をこなす方……ああ、舞の使い手もよろしいですね」

「好みなど。私は、この邸できょうだいたちの母代わりをしなければなりません。特に、旅子は思っていたよりも幼かったので……恋には憧れますが、今は考えられません」

「もったいないことです。若くておうつくしい姫さまが、邸の女主人を続けるなんて」

 但馬の櫛を握る手に、きゅっと力が込められた。

「ご縁談は、重明さまがお決めなさいます。我々は、真白さまの身の回りのお世話に徹するのみです。おかしな文など預かってはなりませんよ。よろしいですか、但馬」

「申し訳ありません。出過ぎたことを」

 乳母が但馬をやんわりとたしなめたところ、但馬は深々と頭を下げた。

 すると、何度も頷きながら乳母は笑みを浮かべる。

「いいえ。真白さまのうつくしさには、心動かされますもの。乳母も、真白さまのしあわせを願っています」

 そのことばに、照葉が目を輝かせた。

「そうですよ! しかも琴がお上手で、歌も素晴らしい。都に戻られて重明さまに教わりはじめてからは、さらに上達されています。真白さまに釣り合う方なんて、それこそ月に住む天人ぐらいではないでしょうか」

「照葉。それは言いすぎですよ。琴も歌も、まだ、学んでいるところです」

 照葉は必死になって真白を崇めようとするので、真白は控えめに反論した。

「かぐやひめがどうしたの? 『竹とり』のおはなし?」

 人形遊びをしていた旅子が、いきなり目を輝かせて話に加わってきた。

「まあ、旅子も『竹とり』を知っているのね」

「順おじさまがね、旅子にね、おはなししてくれたの!」

 父の詩友である源順はこの東三条邸によく遊びに来る。旅子はそのとき、順と親しくなったのだろう。真白と旅子は『竹とり』の話で盛り上がる。

 先日、順は裳着のお祝いに新しい物語を贈ってくれた。自分が書いたとは明らかにしないが、作者の名前も言わない。

 今、大切に読んでいるところだ。

 童形のころならば直接会ってお礼を言えたが、真白にはもう叶わない。旅子が少しうらやましい。

 照葉と但馬は、まだ言い合っている。ふたりが遠く感じる。

 恋など、できるはずがない。真白には夢のようなものだ。眠そうな旅子の背中を右手でさすりながら、真白は目を細めた。

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