第七話 めぐる季節と妹と私
父・重明は、真白と旅子の部屋まで毎日のように来てくれた。 真白が父に歌や琴を教わろうとすると、旅子が割り込んでくる。 「おとうさま。お姉さまは、旅子とお人形であそぶのよ。そのあとはおかしをいただくの」 あちこち動き回る旅子が、愛らしい。笑顔も困り顔も、口をへの字に曲げた泣き顔すらかわいい。 旅子に振り回されている真白だが、ふと視線を動かすと、今日も父は但馬と語らっていた。何気ない会話が続いているが、途中から話に加わりづらくなった。 時おり、父が但馬に肩を寄せる。但馬は抗わない――近い。近すぎる。 寂しいようなほっとしたような、娘としてはもどかしくなるが、母がいなくなってから父に寄り添ってくれたのだろう。そっと、目を伏せる。 そんなふたりの様子を、照葉が唇を噛み締めながら追っていた。 「なにか言いたいなら、言ってみてはどうなの。照葉」 旅子と同じ部屋になってから、照葉の様子がどうもおかしい。 「いいえ。十年もいなかったせいか、このお邸のことをほとんど忘れていて。人も入れ替わっていて知らない顔ばかり」 「そうではなく、気にかかることがあるのでは? たとえば、但馬のこと。それとも、父さまのこと」 「やめてくださいませ、真白さま」 かすれかけた小さな声。照葉が首まで真っ赤になった。 冗談のつもりだった。まさかそんなことはあるはずがないと、軽く口にしたのに。真白から視線を逸らした照葉は俯いてしまった。 「ごめんなさい、照葉。からかうつもりはなかったの。ただ、近ごろの照葉の様子が気にかかって」 「……いいえ、謝るのは私のほうです。申し訳ございません。但馬から、重明さまに、その……目をかけていただいていると聞き、そうなのか、と。但馬は見目がよくてできる女房ですので、寛子さまを亡くされた重明さまもきっと……いいえ、いいえ。このようなことを考えてはなりません。照葉はただの女房。真白さま付きの女房です」 右手を伸ばし、真白は照葉の背中をさすった。 「ひそかに、父さまに思いを寄せていたのに、私のために伊勢までついてきてくれたのね。残ることもできたのに」 もし、斎宮へ同行しなかったら、今ごろ父をなぐさめていたのは但馬ではなく照葉だったかもしれない。 「いいえ、いいえ……私は真白さまの女房です」 肩を震わせる照葉を真白は受け止めた。 「都に帰ったら恋を見つけましょうなんて言い出したあなただけれど、心にはとっくにあたためていたなんて。先を越されたようで、ちょっと悔しくて、うらやましい」 「申し訳……ありません」 「謝らないで。照葉の心は照葉のもの。誰も触れられない」 ◇ ◇ ◇ この年の末に、母・寛子の一周忌が嵯峨の棲霞寺(せいかじ)にて行われ、真白もきょうだいたちを連れて参じた。新たに安置された金色の釈迦如来像にみなで手を合わせる。 最年少の参列者となった旅子だが、厳かな雰囲気を察してか終始おとなしかった。小さくて白い両手が、真白の目に焼きついて離れない。
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