第五話 白き玉と母の願い
乳母に差し出されたのは、鈍色の装束一式。
「こちらにお着替えを」
親が亡くなると、一年間の喪に服さなければならない。それは斎王も例外ではなかった。都からの急使は服喪の装束まで携えていた。
光沢のない、濃い灰色。
白以外の衣を身につけるのはいつ以来だろうか。長らく遠ざけてきた色を目の当たりにした。真白は黙って袖を通す。
「重明さまからの文も預かっております。急使はこちらに一泊するそうです。読み終わりましたら、お返事をなさいませ」
差し出された文には『真白へ』とある。父の字だった。
……読みたい。
けれど、そこに書かれていることを思うだけで、胸が締めつけられそうになる。
「しばらく、ひとりにして。返事が書けたら呼びます」
それだけを言い終えると、乳母の手の中にあった文を思わずつかみ取った。
指先が震えていた。心配をかけてしまう。悟られたくない。文を守るようにして胸に当てる。
真白のそばに近寄る足音が聞こえた。わずかに顔を上げて見ると、照葉だった。両目に涙をたたえていて、今にもこぼれ落ちそうになっている。
「どうか、お近くで待たせてください。おひとりだなんて」
気持ちはありがたいけれど、ひとりになりたかった。再び俯き、首を横に振る。
「なりません。照葉、行きますよ。真白さま、いつでもお声をかけてください」
「でも、真白さまを置いて行くなんて」
「行きますよ」
照葉の足は何度も止まりかけるが、そのたびに乳母が照葉の袖を引いた。衣擦れの音が次第に遠くなり、やがて消えた。
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