第五話 白き玉と母の願い
時は過ぎ、三月になった。
いつでも斎宮を引き払えるように、真白たちは身の回りの品を片づけていた。
十年近く過ごしたため、荷が増えていた。少ないと思っていたが、なかなかの量。
都でも、真白の帰京に向けて準備が進められているだろうが、急に決まった斎王退下ゆえ出発にはもうしばらくかかりそうだった。
「それは捨てましょう。反故(ほご)ですよ」
「いやです。真白さまが詠んだ歌。習作とはいえ、取っておきたいです」
四隅が黄ばみはじめた紙束を、しっかりかかえる照葉には苦笑するしかなかった。
「持って帰ってどうするの」
「いつか、私が真白さまの歌集を作ります。真白さまには、歌才がおありです」
「照葉、真白さまが困っていますよ。無理に持ち帰ろうとするのはおやめなさい」
古い紙束を乳母が取り上げようとしたので、照葉はしがみついた。
「いやです。処分してしまったら、二度と戻って来ません」
照葉の執念に根負けした乳母は手を放した。
これが、最近の光景だった。
母の死の知らせを聞いてから、そろそろ二か月。都では、藤原忠平……母の父がゆかりの寺・法性寺にて丁重な四十九日法要を営んだという。父も供養三昧の日々を送っている。
心の傷は消えないが、真白には照葉と乳母という支えがいる。
そして、都に帰れる。
母がいない都になってしまっても、帰れるのは嬉しかった。
しかし、帰京を喜んでいいのかどうか、悩んでいる。深く考えたくなくて、荷づくりに没頭する。
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