月刊傍流堂

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第四話 逆さまの都

「分かりません。なぜか、急に」

「屏風の音に驚かれたのでしょう。ほんとうに申し訳ありません」

「……いいえ、いいえ。けっして、照葉のせいではないの。なにか、もっと……」

 言い淀んでいると、乳母が戻ってくる気配がした。真白の名前を叫びながら、ばたばたと、廂を駆けている。

 粗暴な振る舞いをする乳母ではないのに、焦っているようで荒っぽい足音のまま母屋に飛び込んできた。

「真白さま……!」

 はあはあと、乳母は肩で息をしている。顔色が白い。髪も乱れていた。

「どうしたのですか。そんなに急いで」

 訝しんだ照葉が乳母を咎めた。

「あ、あの屏風はなにごとですか。いいえ、それは些細なこと。真白さま!」

「真白さまは、屏風の倒れた音に驚いてしまって」

「だいじょうぶよ、照葉」

 顔を上げた真白は、乳母に向かってしっかりと視線を送った。

 乳母は、手に文を握っている。私信ではなく、公的な文書のようだ。

 馬で、急な知らせが届いた――都から。しかも、乳母の様子からしていい知らせではないことが察せられた。息が止まりそうになる。

「まさか、帝が御譲位なされた、とか」

 先に照葉が答えたけれど、乳母は首を横に振った。

「いいえ。真白さま、落ち着いてよく聞いてくださいませ。今月の十七日に、真白さまの母上が身罷られました」

 思いがけないひとことに、真白はことばを失った。

「え……」

(続く)


藤宮彩貴(ふじみやさき)

東京都杉並区生まれ。東京都立大学人文学部卒業。一般企業や都内の区立図書館での勤務などを経て、2020年第3回富士見ノベル大賞審査員特別賞受賞。翌年『焔の舞姫』にてデビュー。ほかに『平安後宮占菓抄』(ともにKADOKAWA富士見L文庫)がある。趣味は寺社仏閣巡り。好きなお寺は京都・南山城の浄瑠璃寺。ほぼ毎日、一万歩歩いて作品の構想を練る日々。

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