月刊傍流堂

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第四話 逆さまの都

 斎宮に来て、もうすぐ七年。

 十六歳になっても裳着を済ませていない姫君は珍しいらしい。

 実家の東三条邸では、二年前に真白の妹が生まれたせいか、育児で忙しい様子。

「真白さまの裳着のことも、早めに考えていただきたいところです」

 都から便りが届くたびに、照葉は愚痴をこぼしている。

 斎王のつとめがあるので、真白自身は裳着にこだわらなかった。成人の儀式をしたところでなにも変わらないような気がする。腰に裳をつけ、眉を整えるなど、形だけ変わっても、中身がない。

 今のままでいい。変わりたくない。おとなになんて、なりたくない。

 八月十五日はかぐや姫が月に還った日でもある。

 都へ帰りたいような、そうでもないような、もどかしい気持ちに今は包まれている。

 唇から古今集の歌がこぼれた。琴の音色に合わせ、一音、一句ずつ、噛み締めるように歌う。

 白雲に
 羽(はね)うちかはし飛ぶ雁(かり)の
 かずさへ見ゆる
 秋の夜の月    (よみ人しらず 古今和歌集191)[1]

 さ夜中と
 夜はふけぬらしかりがねの
 きこゆる空に
 月わたる見ゆ   (よみ人しらず 古今和歌集192)[2]


  1. 白雲の浮ぶ空をはばたいて飛んで行く雁の、その数までもはっきりわかる、みごとに明るい秋の夜の月だ。 ↩︎
  2. 夜が更けて、もう真夜中になったようだ。雁の鳴く声がどこからか聞こえてくる。その空に、明るい月のわたってゆくのが見える。(いずれも『古今和歌集』新潮日本古典集成より) ↩︎
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