月刊傍流堂

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第八話 ふたつの求婚

 時はやや遡り、桜花の宴。

 宴のために朱雀院へと行幸した村上帝と重明親王、それに藤原忠平が酒を酌み交わしている。

 舞に、詩歌。管絃。豪華な膳と酒。

 朱雀上皇は満足したと言い残し、早々に休んでしまった。

 重明の目の先には、満開間近の夜桜が揺れている。

 妻・寛子を失って一年が過ぎ、悲しみは薄らいできたが忘れる日はなかった。今でも朝夕の供養は欠かさない。子どもがいなかったら、若くして亡くなった妻を弔うために出家したいところだ。

「今年も、桜はうつくしく咲き揃いましたね」

 盃に桜花を浮かべた忠平が笑った。

 忠平は寛子の実父。その葬儀の折には細やかに世話をしてくれた。藤原氏の頂点に立つ長者であり、関白太政大臣。真白の斎王群行のとき、物忌みになった朱雀帝に代わって儀式を執り行った。

「桜は変わりませんね。同じ花を咲かせ、同じく散る」

 伏し目がちに、やや諦観を込めた重明に対して、帝が身を乗り出した。

 帝は二十二歳。今宵は内裏の外におられるせいか、常よりもゆったりと構えている。

「いやいや。同じように見えても花は違うぞ。花といえば、兄上の邸の若桜はどうなのだ」

 東三条邸の桜――今まさに、開こうとしている――に、帝は興味を示した。

「いや、あれは世間にはまるで興味がないようで。最近は、斎王に選ばれた妹についていきたいと訴える始末です」

「ほう、伊勢に」

「そんな先例はないから諦めろと言っても聞かないので、邸の者もあきれております」

 おもしろい頑固者だな、と帝はほほ笑んだ。

「斎王時代には、祈りによって平将門と藤原純友の乱を鎮めたと評判になり、帰京後は東三条のかぐや姫と謳われている姫に、風雅で名高い重明が手を焼いているとは。まあ、確かに真白は我が孫ながら、まっすぐな姫だ」

 忠平も、扇を広げて口もとを隠しながら苦笑した。

「都に帰ってきて日の浅いかぐや姫が、妹と再び伊勢か。それより、元斎王は『真白』と申すのか。うむ、よき名だ」

 重明は頭を垂らしながら答える。

「……肌の白い子でしたので、そのまま呼び名に」

 伊勢斎王という大任を終えた大切な娘。人の噂にしたくないので、真白には触れないでほしいが、帝は許してくれなかった。

 忠平が割り込んできた。

「恐れ多いことですが、真白は、以前より朱雀院からしきりに御文を頂戴し、困り果てております。院の御世に、伊勢斎王をつとめていたのが真白です。御自身の斎王と結ばれるなど、聞いたことがありません」

 おおげさに眉を顰めた忠平に、重明も帝もつい引き込まれるように頷いたので、忠平は勢いづいた。

「それに、院はお体が弱く、我が孫を任せるには不安が残ります。この際、伊勢へ行かせるのも悪くないと、ふと考えてしまうときがあります」

「……ああ。そういえば、院は斎王のことを気にされていた。あれは真白のことだったのか。そうか、院が執心」

 帝が自身の顎を撫でた。さらに、忠平が続ける。

「その上、真白は歌に詳しく、琴にも秀でております。古今集二十巻を諳んじているのはもちろんのこと、重明直伝の七弦の琴を弾きます」

「なるほど、なるほど。聞けば聞くほど、真白はまさにかぐや姫だな、兄上」

「は……」

 恐れ多くて、重明は平伏した。あからさまに真白を持ち上げようとする忠平に、内心腹立たしくなった。

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