第八話 ふたつの求婚
……いや、今はできない。 やはり、旅子が心配だ。 斎王に卜定されて以降、旅子は東三条邸の一画で潔斎生活を送っている。 自分のときもそうだったと、真白は思い出す。白ばかりの部屋に急に閉じ込められ、どこにも出歩けず、家族にすら気軽に会えなくなった。 さぞかし旅子もつらくて寂しいだろうと、真白は旅子をなぐさめるつもりで菓子などを持って面会に行った。 「ましろ姉さま! 『いせ』のことを、おしえて。『さいくう』って、どんなところなの?」 顔を合わせるとすぐに、白い装束に身を包んだ妹は真白の袖にまとわりついた。 「旅子はね、早くいせに行きたいの。うみが近いって、聞きました。おいしいものがたくさんあるって、てるはがおしえてくれました」 満面の笑みに手振りを加え、旅子は全身で語りかけてきた。 ……違った。旅子は、同じ父母から生まれたけれど、違った。 「まずは、祈りを捧げるのですよ。この世が平らかで、安らかでありますように、って」 「はい! 姉さまは、お祈りで、いくさを終わらせたと聞きました。でも、旅子はね、おやしきから出られるのが、いちばんうれしいの。旅子は、姉さまとちがって、おうたもおこともすきじゃないから。もっとれんしゅうしなさいって、いつもおこられるけど、旅子はおそとに行きたいの」 目を細めた真白は、旅子の前に座って頭を撫でてやる。 「まずは、旅子の元気がいちばん大切です。私にもお手伝いさせてね」 「はい。かぜもひかないようにする、旅子」 旅子はきゅっと口を引き結び、伊勢の方角を見つめた。 真白が同行し、真白のやり方や考えに染めてしまうのは良くないかもしれない。 むしろ、自分の気持ちを整えないといけないようだった。旅子には、旅子の道がある。真白にも、真白にしかない道が―― 邸の庭の桜は、散りはじめていた。どこに行くのか、幾片かの桜花が風に乗り、舞っている。
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