第八話 ふたつの求婚
しばらく、考え込んでいた様子の帝だったが、一瞬だけ忠平に視線を送ったあと、膝を打った。 「では、こういうのはどうだろう。わたしが、重明の大切な真白を預かる。その代わりに重明はわたしの登子(とうこ)を預かる。真白、登子、ふたりの祖父である忠平は、それを見守る」 重明はとっさに返事ができなかった。 真白を帝に? 入内させることになるのか? それに、登子とはなんだ。帝の寵妃か。忠平の様子を窺うと、にんまりと笑ってしきりに頷いていた。 「妙案ですな! 朱雀院には申し訳ありませんが、帝が真白をお望みなら院とて口を挟めますまい。それに、登子も重明さまの後妻におさまれるならば、本望にございます」 嬉しそうに、忠平が一気に酒を呷る。薄暗くても見分けられるほど、顔が真っ赤だ。 「お義父上。『登子』とは、いかなるお方ですか」 「ああ。我が次男・師輔(もろすけ)の次女だ。帝の妃、安子(やすこ)の妹に当たる」 帝と忠平が目尻を下げた。登子について知らないのは重明だけのようだ。 庭では、篝火が揺れて火影がちらついている。 「登子とは、後宮で偶然出逢ってな。しかしわたしには、安子がいる。かといって、登子をほかの男に渡すのは惜しい。だが、重明の兄上にならば託してもよい」 帝も上機嫌で盃を傾けた。 「安子さまの妹君となると、うちの真白と同世代では。そんな若い人をこの老人の後妻に」 「いやいや、重明さまはお若い。これで、いったんは絶えたように見えた重明さまとのご縁が、また繋がります。あの世で寛子も喜びましょう」 「そうと決まれば文だ。真白というかぐや姫に、文を送らねば」 「重明さまも登子にぜひお文を。さあさあ」 明るい声が響くが、重明は筆を握る気になれなかった。 なぜ、こうなったのか。忠平にうまく誘導されたとしか思えない。 酒の席とはいえ、真白の話を振り、院の恋慕を言い出し、師輔の次女の話まで……仕組まれていたのだろうか。 そして、重明は帝の文を持ち帰ることになった。
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