第八話 ふたつの求婚
御文を読んだのに、結局、帝への返歌は送らなかった。 申し訳ないけれど、今の真白にはそれどころではない。 真白は父に会うたびに、『旅子について行きたい』と訴えた。 「いや、先例がないのでだめだ。いくら真白の願いでも、聞き届けられない」 「では私が先例となりましょう。これからも年若い姫が斎王に選ばれることはあるはず。そのときに、母や姉など斎王の近しい者が寄り添えますように」 しかし、何度お願いしても、父は首を横に振るだけだった。御簾越しなのに、はっきりと見て取れた。後世に遺すため、父が日記をつけているのは知っている。宮中の行事や儀式にも詳しい重明親王が言うのだから、先例がないのは明らか。 「先例がない」 「先例、先例。そんなに先例が大切ですか。しきたりにばかり気を取られ、大切なことを見落としていませんか」 耐えきれず、真白は御簾の下からくぐり出て父の袖に縋った。 「ましろ……」 かすれた声で、父が娘の名前を呼んだ。 唇を噛み、悔しそうな真白に重明は思わず目を逸らした。 成人した姫が異性と直接顔を合わせることは、ほぼない。身内であっても御簾や几帳を隔てるのが慣例だった。 「父とて、できることならそなたの願いを叶えてやりたい。しかし、斎王は旅子なのだ。役目のない真白が同行する意味は、ない。それに、真白がいなくなったらこの邸の家政はどうなる。せっかく、そなたに任せはじめたところだ」 「それは……」 東三条邸には、まだ弟たちがいる。邸で働く者たちも。-rotated.jpeg)
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