第3話 つきよよし
なにやら、斎宮が騒がしい。 琴の手入れをしていた真白は手を止めた。几帳の隙間から、息を詰めて外の様子を窺う。 日々を送っている内院の向かいには、斎宮寮の寮庁が建っている。そこから、斎宮の役人や女官の声が響いてきた。 みな、同じように明るい笑顔を浮かべ、頬が緩んでいる。配られたものを大切そうに抱えたり、見せ合ったり。 ――ああ、今日は都から使いが来る日。 目を伏せ、几帳から手を離した。ふっと、光が閉じて視界が消える。 ほぼ毎月、斎宮には都から荷が送られてきた。文のほかにも日用品や新しい装束、恋しい都の食べものなども含まれている。 だが、真白にはなにも届かない。 真白がいらないと、言ったから。 白い袖を手繰り寄せ、顔を埋めて息を止める。しっとりとした斎王の装束は、真白の心を慰めてくれた。 斎王として旅立つとき、真白は父母に強く言い放った。『斎王のお勤めを果たしたいから、文はいらない』と。 もちろん、便りは欲しかった。どうしているのか、知りたい。 けれど、読み終わったときのむなしさを、真白は怖れた。文が次に届くまで、どう待てばいいのか。耐えられそうになく、頑なに拒んでしまった。 あのときの、父母の悲しそうな顔が忘れられない。 役人や女官たちの笑顔が脳裏に貼りついている。親しい人から文などが届いて嬉しいはず。なかなか立派に整っているとはいえ、やはりここは多気(たけ)の斎宮。都ではない。 「真白さま……斎王さま宛てに、報告が届きました」 澄んだ声で、照葉は都からの通達を読み上げてくれた。再び、琴の手入れをしながら耳を傾ける。 前年の関東の乱に続き、瀬戸内での争いも終わった、ということ。 平将門。藤原純友。荒ぶる魂が鎮まったらしい。 「……そうなの」 短く答えることしかできなかった。 それぞれ、東国と西国の武将が取り押さえられても、真白にはそれがなにを意味するのかよく分からなかった。ひたすら、琴の弦を指でなぞる。 「長かったいくさが終わったんです。真白さまのお祈りが天に通じたのですよ」 照葉の声は穏やかだった。東西のいくさが終わったと知り、ほっとしたのだろう。真白は曖昧に頷いた。 「もっと、『これは真白さま、斎王さまのお手柄だ!』って、胸を張ってもいいんですよ」 「できることは祈るだけ。しかも、私の祈りが神に届いているかどうか、誰も知らないはず」 「真白さまは、謙遜が過ぎます! そんなことでは、御褒美を差し上げられませんね」 通達文が入っていた箱を横に追いやると、もうひとつの箱を真白の前に置いた。蓋の螺鈿が眩しい。この中身は、報告書などの堅苦しいものではなさそうだった。 「都からの贈りものです」 今日いちばんの笑みをたたえた照葉は、真白の手を取った。 「さあさあ、開けてみてくださいませ」 「開いたら、もくもくと煙が出てきて、たちまちおばあさんになったり……」 「なりせんよ、そんなこと」 困りつつも、蓋を持つ手に力を込める。 中には、巻物が二巻、並べて入っていた。
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