第2話 櫛の別れ
二日目の夕刻、一行は再び伊勢に向けて出立し、甲賀泊。 三日目、垂水泊。 道を進んでも、景色はあまり変わらない。田畑があり、森が広がっている。里の人々は、こちらの大行列に怯えつつも、目を離せない様子だった。 ◇ ◇ ◇ 四日目は、鈴鹿峠越え。 昼間でも鬱蒼としていて、盗賊がよく出るという。天候も変わりやすいらしい。 空を見上げても、木々が高く伸びていて暗い。 道が悪いので、真白以外はみな、牛車や馬から下りて徒歩になった。 乳母は大汗を垂らし、ひいひい言いながら歩いている。輿の担ぎ手たちが荒い呼吸を繰り返していて苦しそうなので、真白も下りたくなった。 必死に、あの歌の『越えぬべらなり』を唱えながら耐える。 どうにか夜遅く、峠を越えて鈴鹿泊。 五日目、一志泊。 「真白さま、斎宮が見えてきました」 照葉の弾んだ声に促され、真白は静かに顔を上げた。 京の都とは、風の匂いが違っている。 新斎王・真白は、斎宮を目にした。多気……竹の匂いに包まれた都を。 *** 天慶元年(西暦938年)。帝は鬱々としていて、人々は怨霊に怯えている。 九月二十日。新斎王が斎宮入りを果たした。 (続く) 藤宮彩貴(ふじみやさき) 東京都杉並区生まれ。東京都立大学人文学部卒業。一般企業や都内の区立図書館での勤務などを経て、2020年第3回富士見ノベル大賞審査員特別賞受賞。翌年『焔の舞姫』にてデビュー。ほかに『平安後宮占菓抄』(ともにKADOKAWA富士見L文庫)がある。趣味は寺社仏閣巡り。好きなお寺は京都・南山城の浄瑠璃寺。ほぼ毎日、一万歩歩いて作品の構想を練る日々。
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