月刊傍流堂

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第2話 櫛の別れ

 昼過ぎ、朱塗りの大極殿(だいごくでん)に入った。広い空間が、やけにうすら寒い。

 この二年間、いつも穏やかに過ごそうとしていたのに、足が震えている。

 

 父と母の笑顔が浮かんでくる。『真白』と呼んでくれる声が耳から離れない。

 かたり、新斎王の席が整えられた。我に返って真白は座る。

 ほんの少しだけ下を向き、唇を引き締めた。心の内で儀式の流れを思い出しながら、帝の出御を待つ。

 小声での会話や衣擦れの音が響く。大臣以下諸卿も揃ったようだ。

 儀式はなかなか進まず、眠気がさした。ほとんど寝られなかった上に、今日は夜が明ける前から身支度をしていたせいだ。

 早く、はじまって。そして、終わってほしい。

 気を張っていないと、うとうとしてしまいそうになる。袖の内で手のひらをぎゅっと握って爪を立てて耐えた。

「そなたが、新しい斎王か」

 急に、頭の上から声が降った。年若い男性……というより、少年の。

 強く腕をつかまれる。俯いていた顔がぐいっと上げられてしまい、面を見られた。父以外の男性に触れられたことがない真白の肌が粟立った。

 不意に、声の主を見てしまう。

 真白と揃いの白い装束を着ていた。もう片方の手に、黄楊(つげ)の櫛を無造作に握っていた。

「重明の娘だったな。まだ幼いが、いい目をしている。噂通り、ほんとうに肌が白い。歌や琴も父親譲りで、筋がいいとか」

 周囲のざわつきを、少年は鋭い視線で制した。

「頼りなさそうな帝に、さぞかし驚いただろう」

 少年……帝は薄く笑ったまま、腕を放してくれない。

 真白は無言で首を横に振り、腕を引いて取り返そうとした。儀式では口を開かないよう、乳母に叩き込まれている。

「しかも勝気そうだ」

 ふと、思った。

 このお方がいなくなれば……このお方さえいなければ、東三条の邸で父母と琴を鳴らし、歌を詠む日々に戻れる。

 ……だが。

 腕が細い。顔色もいいとはいえない。このお方は真白の父の、歳が離れた異母弟。

 昨年元服したばかりの朱雀帝は、肩が小刻みに揺れ、浅い呼吸を繰り返している。

 真白は、ほほ笑んでしまった。

「なんだ、笑ったな……今。飾りものの帝が、そんなにおかしいか」

 帝は、射抜くような目を向けてきた。真白の笑みを嘲笑と受け取ってしまった。

 違いますと訴えたかったが、しゃべってはいけない。眉間に皺を寄せ、真白は歯を食いしばった。

「勝手に、斎王に、選ばれてしまったそなたになら、分かってもらえそうな気がしたのに。そなたなど……、こうしてやる!」

 別れの櫛を振りかざし、真白めがけて素早く下ろした。

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