第六話 斎王の帰る日
秋晴れの朝。空が高く、広い。 帰京の一行が旅立とうとしている。 斎宮は今日で見納め。もう、来ることもないだろう。 この地に照葉は残らないと断言していたが、都から来た女房の中には伴侶を見つけて留まる者もいるらしい。 真白のもとにも文が届いた。以前、かわらけを掲げながら『つきよよし』の歌を唱和した少女からだった。 かな文字で、一文字ずつ丁寧に『さいおうさまへ』と宛名があった。文を開くと、さびしくなる、どうかお元気で、と綴ってある。 無理を言って乳母に筆と紙を出してもらった。荷物をまとめてしまったあとなので乳母は嫌な顔をしたが口には出さなかった。 少し悩んだあと、真白はさらさらと古歌をしたためる。 『かぎりなき 雲居のよそに 別るとも 人を心に おくらさむやは』 (よみ人しらず 古今和歌集367) この歌と、『次の斎王にもよく仕えてほしい』と付け加えて文を結び、乳母に渡した。 真白は輿に乗った。 『斎王さま』『お元気で』『忘れません』などの声が耳に入ってくる。手ぐらい振り返せたらいいのに輿は固く閉ざされていて、それすら叶わない。心を氷のように冷たくして、揺れに身を委ねる。 ……まるで、かぐや姫のよう。 勝手に選ばれて連れて来られた斎宮を、好きになることはないと思っていたのに。別れが惜しい。闕けた斎王だったが、自分にもできたことがまだあったのではないか。 思えば、神事に深く関われなかったことも不満だった。 この身は斎王だったのに、神宮の奥には入れなかった。短い祝詞と供物を捧げるのみ。神の声も気配も分からなかった。 帰京後、斎王はどうだったかと聞かれたら、悔しかったと答えるつもりでいる。
この記事へのコメントはありません。