月刊傍流堂

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序章 私を、さがしてほしい

 バスに飛び乗り、有栖川バス停にて下車。

 俗世間から離れた斎王が、潔斎した跡だといわれる場所に建つ『斎宮神社』と『斎明神社』に続けて参拝。

 両方とも小さな社だが、鳥居をくぐった瞬間に風が強く吹いて木々がざわめいた。

 斎宮神社は三条通に面しているので明るく、車も人も行き交うものの、斎明神社のほうは住宅地に入ったところにあるせいか物悲しく、なぜか鳩だけが集まっていた。

 真白さまは、八歳で斎王に選ばれて家族と離れたと知り、胸がちくりと痛んだ。

 当時は数え年なので現代風にいうと七歳、もしかしたら六歳だった可能性もある。小学校に入学するぐらいの年齢で、国のために人生が決められてしまうなんて。

 

 あらためて一礼をして西へ急ぐ。あとはもう、徒歩でもそう遠くない。

 左手に、桂川と渡月橋が見えてきた。吹く風を追いかけ、吸い寄せられるようにして嵐山まで辿り着く。

 徐々に、耳に届く音が大きくなってゆく。儚そうなのに、気高い音だ。

 しかし、平日だというのに観光客が車道まではみ出しそうな勢いに戸惑う。道は両側にお店がびっしり並んでいる。

 天龍寺の脇をどうにか過ぎ、左へ曲がると有名な竹林が広がる。

 現代的な賑わいが消え、さやさやと、風が竹の間を吹き抜ける音がする……が、風の音は、ほんとうにささやか。戸惑いを感じるほど人があふれていて、嵯峨野のこの小径は撮影会場と化している。

 ぐっと唇を引き結び、人波を掻き分けて進むと、竹林の先にようやくお目当ての場所があらわれた。

 ゆっくりと見上げた先には、素朴な黒木の鳥居。

 先ほど通りかかったまばゆい金色のそれとは、あまりにも異なる。

 ここも、斎王潔斎の場だったと伝わる『野宮神社』。

 縁結びや子宝の御利益、あるいは『源氏物語』ゆかりの地として有名なため、けっして広くはない境内に人がひしめき合っていた。

 参拝するべく、砂利を鳴らしながら歩みを進める。ポケットから真白さま人形を取り出して目を閉じ、ともに手を合わせ、真白さまに呼びかける――ここでしょうか、真白さまのしるしは。

 境内のざわめきが遠くなり、涼やかな風が頬を撫でた。

 琴の音が、この体を包み込んで響く。初めて訪れたこの地をとても懐かしく感じる。

 わずかに、人形が動いた気がしたのであわてて目を開いたものの、真白さま人形に変わりはなかった。手応えがあったと感じたのに、つかめなかった。

 音も消えてしまった。穏やかな日常が流れている。

 気を取り直して授与所を覗くと、愛らしいお守りや絵馬が充実していた。

 良縁、と書いてある絵馬も並べてあった。結婚など、現在では男女の縁に使うのが一般的だけれど、良縁には良い出会い、という本来の意味がある。

 今日は真白さまとの縁を結ぶ旅。絵馬を奉納しようと決めた。

『真白さまのしるしを、もっとさがせますように』

 そう書き記し、最後に署名する。絵馬の上を滑るように油性ペンが走った。

 ――『真白』、と。

 なぜ、真白さまが自分に話しかけてきたのか、はじめから分かっていた。真白さまは、自分と名前が同じなのだ。

 潔斎を終えた十歳の真白さまは伊勢へと旅立つ。

 母親の死によって十七のとき、帰京。大役を果たし、穏やかに終わるはずだった人生は、帝に見初められて劇的に変わってゆく。

 しかし、彼女は運命に流されずに生きる道を選び、得た。

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